気ままにゆるりと

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電車と女子高生 

 午前7時過ぎ。
 瀬戸内海の沿岸を走る電車に乗り込むと、通勤通学の人間で車内はそれなりに混み合っていた。ざっと見渡すが、あいにくと席は空いていない。僕はドアのすぐそばで座席と天井を繋ぐポールに捕まる。都会の人に言うと驚かれるかもしれないが、朝のこの時間でも、電車は一時間に一本しか走っていない。そのため、一本乗り過ごすと、それはもう色々と大変なことになる。勤勉、勤労な人間には思いもよらない世界が待ち受けているのであるが、それは今回の話とは直接関係が無いので、省略することにする。しかし、もしかすると、そんなことよりも、豚舎のような小部屋にぎゅうぎゅうに押し込められて息をするのにも苦労する、あの通勤ラッシュという日常が存在しないことのほうが、よほど驚きに満ちた光景なのかもしれない。
 車窓から穏やかな海を眺めていると、乗換駅に着いた。ここからはさらにマイナー路線に乗り換えて目的地を目指すことになる。スーツに身を固めたサラリーマンの姿が少なくなり、学生の比率が増える。制服のデザインから類推すると、沿線には三つほど高校がありそうだ。それはそうと、制服のデザインは素人目にも可愛くないように感じる。この数年間目にし続けてきた制服のせいで、制服というものにもっと華やかな印象を持っていたが、恐ろしい刷り込みをされていたようだ。赤と白のストライプではないし、ひらひらとしたリボンなどはついておらず、いたって地味。だが、現実はこんなもんだ。甘い幻想は捨てよう。あまりじろじろ見ていると不審者と思われるかもしれない。気をつけないと。
 電車が止まる。学生がぞろぞろと降りて席が空いた。僕は一番端の席に座り、鞄から文庫本を取り出し読み始めた。隣に女子高生が座る。誰が隣に座ろうと問題なく、深い意味は全く無いが、あえて言うと女子高生が隣に座った。事実、僕の興味は隣で友達とのおしゃべりに夢中になっている女子高生よりも、正面に座った男子高校生のほうに向いていた。隣に座った女の子よりも色白で、小作りな整った顔立ちをしている。優等生らしく切りそろえた前髪と知的に見える眼鏡。ありていに言うとちょっとカッコ良かった。本のページをめくるのも忘れて一瞬見つめてしまったが、彼は黙々と文庫本を読み続けていたので気づかれることは無かったと思う。
 ここまでなら、なんということは無い朝のひとコマですんだのだが、そのあとに起きた出来事のせいで、僕は少しだけ微笑ましく思い、それでいて女の子の怖さというものを思い知ることになった。あとから乗り込んできた女子高生の二人組みがいったん席についたにも関わらず、立ち上がり、タタタっとその少年のもとに駆け寄ると、はにかみながら可愛く「おはよう」とあいさつをしたからだ。少年は文庫本から顔を上げて、不思議そうな顔で「おはよう」と言うと、すぐにまた本を読み始めた。ああ、彼はやはり人気ものなのだな、と僕は本を読むふりをしながらにやけてしまった。制服のデザインから三人が同じ学校の生徒であることは容易に推し量れた。
 目的地が近いことを車内アナウンスが告げていた。僕は文庫本を鞄にしまい、顔を上げた。その時になって初めて気がついた。彼のすぐそばには、何人も同じ学校の男子学生が立っていた。彼らはお世辞にもかっこいいとは言いがたかった。しかし、それでも、そんなあからさまな態度の違いを見せつけられては、朝からどんよりとした気分に陥ってしまうのではないだろうか。と、同情してしまった。全くもって余計なお世話である。
 無邪気というのはときに残酷。ああ、女子高生よ。僕の幻想を砕かないでおくれ。
2011/04/21 21:11|日常TB:0CM:0
 
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